政府の新型コロナウィルス対策に対する女性たちからの要請
【2021.06.09】
久しぶりの更新となりますが、先月の憲法記念日(5月3日)、東京新聞朝刊1面トップ記事として、私たちのこの取り組みについて取り上げられましたのでお知らせします。東京新聞は、憲法記念日の企画として、私たちのこの政府への要望がどれほど実現したかについて、どう評価しているか、伝えてくれたのでした。記事をリンクします。担当いただいたのは川田篤志記者です。
「憲法24条の精神どこに? ジェンダー平等視点でコロナ対策チェック 呼び掛け人「性差別、悪化させかねない」と指摘」@東京新聞(2021年5月3日 06時00分)
**********************************
私たちは、2020年5月1日付で、日本政府に対し、下のような要請文を送りました。
さらに、同5月7日付で、「追記」を送付いたしました。
2020年5月1日
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
新型コロナウィルス対策担当大臣 西村 康稔 殿
総務大臣 高市 早苗 殿
厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
内閣府特命担当大臣(男女共同参画) 橋本 聖子 殿
政府の新型コロナウィルス対策に対する女性たちからの要請
新型コロナウイルスの感染拡大に対する政府の対策は、根本的にジェンダー平等や女性の現実への配慮に欠けたものとなっていることを、私たちは深く憂慮します。パンデミックが既存の性差別や経済格差をさらに広げるものであるだけではなく、政府が打ち出す感染対策や経済対策がそれらをさらに悪化させかねないものであることを指摘し、速やかな対策の修正を求めます。
まず、4月17日、総理大臣が「一律に1人当たり10万円」と発表した給付金は、「特別定額給付金」として制度化されましたが、そこでは「受給権」者が「(住民基本台帳に記録されている者の属する世帯の)世帯主」とされています。世帯主はその相当数が男性だと考えられます。この仕組みは、妻や子どもは世帯主である夫を通じて給付金を受け取ることとされ、個人が個人として給付金を受け取る権利があることを保障していません。多くの女性たちがその点に強い不安と不満を感じています。そのような思いは「#世帯主ではなく個人に給付して」というハッシュタグによって表明されました。
非同居のDVや虐待被害者については、女性NPO等からの要請を受け受給できる仕組みが打ち出されたものの、申請期限に関してわかりにくい記述が行われ、支援の現場に不要な混乱が生じています。また、同居を続けている被害者に関しては、果たして給付金が届くのか判らない仕組みとなってしまっています。
そもそも、「特別定額給付金」の発表前に公表され、後に取り下げとなった減収世帯への給付も、世帯主の減収のみを対象とするものでした。これも、共稼ぎ世帯における非世帯主(多くは女性)の減収の影響、ひいては家計や社会の経済活動における女性の貢献を、正当に評価したうえで打ち出された対応策とは到底思えないものでした。
また、2月末には、突然の一斉休校要請によって、女性たちから、子どもの世話で働けなくなるという悲鳴のような声が上がりました。総務省の「労働力調査」によると、15~64歳女性の就業率は71.1%(2020年3月)に達し、共働き家庭は片働き家庭を上回り続けています。育児や介護などのケアを抱える労働者への配慮は不可欠であるのに、政府にはそうした認識が欠落しています。
政府は批判を受けて、休校に伴う休業補償を打ち出し、続いて休業要請での損失補償も打ち出しましたが、働く女性の54%は非正規であり(2020年3月)、フリーランサーの女性も少なくありません。正社員のみが対象であると雇用主が誤解したり、周知が不徹底であったりしたために休業手当を支給されない女性も多く、また、もともとの賃金水準が低いため、補償額も低くなり、ひとり親をはじめとする女性の貧困が加速される恐れも出ています。
女性の就業率が高い産業のトップ3は「医療・福祉」「宿泊業・飲食サービス業観光」「生活関連サービス業・娯楽業」です。これらの仕事は対人接触をその本質としており(つまり「濃厚接触」の度合いが高く)、そこで働く人たちは、感染の危険とともに、休業要請に直撃されています。であるのに、こうした女性たちへの補償や安全対策が講じられるどころか、休校休業についての補償から「風俗関係」などが一時除外される事態も起きました。批判を浴びて見直されたものの、職業差別発言が煽られ、当該職場の女性たちは、休業による経済的負担と差別の二重の不安にさらされています。
「家にいよう」の掛け声の下で、家庭内の労働負担やDV・児童や少女への虐待は、今後さらに拡大することが懸念されます。女性にとって家が安全な場所であるとは限らないからです。ストレスの増加は暴力のリスクを高め、外出制限のために長時間にわたって被害者は暴力加害者と同じ空間で過ごすことになります。その一方で、外出や電話によって支援団体に繋がることが困難な状況に置かれています。女性団体やシェルターなど、困難を抱える女性や少女を支援する団体への助成が一層必要になっています。
迅速で効果的な対策には、人口の半分を占める女性の視点が不可欠です。実情とかけ離れた対策では、今のように、打ち出されるたびに批判が集まり、修正を迫られて実施が遅れる事態を繰り返しかねません。政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」には、確認可能なものとしては「令和2年4月7日改正」版以降、「三 新型コロナウイルス感染症対策の実施に関する重要事項/(6)その他重要な留意事項/人権への配慮等」として、「③ 政府及び関係機関は、各種対策を実施する場合においては、国民の自由と権利の制限は必要最小限のものとするとともに、女性や障害者などに与える影響を十分配慮して実施するものとする」と盛り込まれているのに、実際の施策にはその視点が欠けたままです。さらに有効で必要な人に確実に届く対策のため、下記のような点を徹底していただけるよう、切に要望します。
①すべての対策を、ジェンダー平等の視点から再検証すること。
②支援の単位を世帯から個人に切り替えること。
●特別定額給付金については、世帯主が「受給権者」であるとの規定を削除すること。一人一人の住民が受給権者であると明記し、ただし同一世帯者またはその代理人に、受給を委任できると規定すること。
●上記が直ちに実現できないとしても、特別定額給付金の申請書においては、世帯構成員ごとに口座を記入できるよう改めること。
③行政による支援や補償にあたっては、すべての人を取り残さないよう実施し、とりわけ接客・風俗関係や非正規労働者などへの職業差別及び待遇差別を行政自らが行なわないことはもとより、民間におけるこれらの人々への差別を撤廃すること。
④一般的に労働者はケア(育児・介護等)を抱えた存在であるとの前提に立ち、実態としては無償ケア労働が女性に押し付けられがちであることが女性差別を助長することを認識しつつ、ケアを担わない労働者を標準とする雇用対策を転換し、家事やケアにあたる家庭内労働者などの感染防止を含めた感染対策を策定すること。
⑤家庭がすべての人にとって安全とは限らないことを認識し、DV・虐待被害者や少女、妊産婦含め「家庭外の安全な場所」を整備・拡充し、相談事業や支援団体を助成すること。
⑥医療やケア労働など感染リスクの高い業務に従事する正規・非正規労働者に対して、リスクに見合う処遇を確保するとともに、宿泊場所、交通手段の提供など支援を強化し、差別を防ぐための周知・啓発を強化すること。
⑦意思決定機関への女性の参加度を格段に高めること。同時に女性団体・NPOなどからの提案・要請の受け入れ窓口を明示し、その窓口部署に対して他部署への総合調整権限を付与すること。また救済の申し立てには責任をもって応答すること。
呼びかけ人(五十音順、4月30日現在)
浅倉むつ子(早稲田大学名誉教授)、大沢真理(東京大学名誉教授)、大脇雅子(弁護士)、戒能民江(お茶の水女子大学名誉教授)、亀永能布子(女性差別撤廃条約実現アクション事務局長)、竹信三恵子(ジャーナリスト、和光大学名誉教授)、角田由紀子(弁護士)、中野麻美(弁護士)、中村ひろ子(アイ女性会議事務局長)、林陽子(弁護士)、三浦まり(上智大学教授)、皆川満寿美(中央学院大学准教授)、村尾祐美子(東洋大学准教授)、屋嘉比ふみ子(ペイ・エクイティ・コンサルティング・オフィス(PECO)代表)、湯澤直美(立教大学教授)、柚木康子(女性差別撤廃条約実現アクション共同代表)
「追記」について
5月1日のこの要請公表後、シングルマザーの方々より、現下の情勢からみて記述に問題があるとのご指摘をいただきました。適切なご指摘であり、深くお詫びを申し上げます。以下のように「追記」として、不足していた点を補い、2点、具体的要請を加えることにし、政府に送付いたしました。(2020年5月10日)
2020年5月7日
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
新型コロナウィルス対策担当大臣 西村 康稔 殿
総務大臣 高市 早苗 殿
厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
内閣府特命担当大臣(男女共同参画) 橋本 聖子 殿
政府の新型コロナウィルス対策に対する女性たちからの要請(追記)
2020年5月1日、私たちは「政府の新型コロナウィルス対策に対する女性たちからの要請」を政府に送付し、公表しました。そこでは、ひとり親をはじめとする女性の貧困につき、言及しつつ、迅速な対応を希望しています。しかし、ひとり親の女性が現在直面している非常に困難な状況について記述が弱く、また、彼女たちへの緊急対策の要請を明記しませんでした。そのため要請の内容が不十分なものとなっておりますので、以下のとおり、不足していた点を追記いたします。
日本の税・社会保障制度では、「男性稼ぎ主」が他の家族構成員を養い、女性が家庭責任を担うという家族像を前提とする仕組みが、諸外国に増して根強く残っています。この仕組みの延長線上で、特別定額給付金(一人一律10万円)においても、「世帯主」が「受給権者」とされており、先の私たちの要請で改正を求めた点です。
「男性稼ぎ主」を前提とする制度により、ひとり親、共稼ぎ夫婦、単身者には重い税・社会保険料負担を負いながら、給付は乏しいという不利益を被っています。最大の被害者は、ひとり親の女性たちです。
「家にいよう」の掛け声の下で、家庭内の労働負担やDV・児童や少女への虐待は、今後さらに拡大することが懸念されます。女性にとって家が安全な場所であるとは限らないからです。ストレスの増加は暴力のリスクを高め、外出制限のために長時間にわたって被害者は暴力加害者と同じ空間で過ごすことになります。その一方で、外出や電話によって支援団体に繋がることが困難な状況に置かれています。女性団体やシェルターなど、困難を抱える女性や少女を支援する団体への助成が一層必要になっています。
シングルマザー当事者団体による最近の会員アンケートの結果によれば、平時でさえ苦しい生活状況にある多くのシングルマザーは、新型コロナウィルスによる影響を受け一層の経済的困難に直面しています(1)。生計の逼迫による生命の危機に瀕している方(2)の存在を念頭においた対応、具体的には、迅速な現金給付が必要です。
政府が緊急対策として児童手当受給の子ども1人当たりに1万円を加算したことは評価できますが、金額がそれでは足りないのがひとり親世帯の実情です。そこで私たちは、以下のように追加の要請を行います。
追加の要請項目
⑧ひとり親世帯(3)に、地域の休校期間に応じて、臨時給付金として、子ども一人につき1か月あたり3万円を迅速に支給すること(4)。
⑨ひとり親世帯に、住民税・社会保険料(国民健康保険、国民年金を含む)を免除すること(5)。
注1)NPO法人しんぐるまざーずふぉーらむ「新型コロナウィルスの影響によるひとり親と子どもたちのくらし4月調査」(2020/04/13暫定版)
https://www.single-mama.com/topics/covid19-support/
注2)NHK Web「新型コロナ感染拡大 困窮するシングルマザー」(2020年4月14日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200414/k10012386671000.html
注3)家庭責任の担い手たらざるを得ないシングルファーザーもまた、上記のような家族像を前提とした社会のありようによって不利益を被っていることに、配慮する必要がある。
注4)すでに、明石市(兵庫県)、平塚市(神奈川県)、市原市(千葉県)、戸田市(埼玉県)、高松市(香川県)などで支給決定と報じられている。
注5)子どもが二人の場合、ひとり親の税・社会保険料負担は、片稼ぎ夫婦よりも重く、収入が低いほど、その負担率の差は大きい(大沢真理「税・社会保障の純負担を比較ジェンダー分析すると」、『社会政策』9(1)、2017年)。OECDの相当数の諸国で、低収入のひとり親では、税・社会保障の純負担がマイナス(純給付となる)であるが、日本では重い純負担となる。平均賃金の半額の収入で国際比較すると、日本のひとり親の純負担は、OECD37か国中で2番目に重い。
呼びかけ人(五十音順、4月30日現在)
浅倉むつ子(早稲田大学名誉教授)、大沢真理(東京大学名誉教授)、大脇雅子(弁護士)、戒能民江(お茶の水女子大学名誉教授)、亀永能布子(女性差別撤廃条約実現アクション事務局長)、竹信三恵子(ジャーナリスト、和光大学名誉教授)、角田由紀子(弁護士)、中野麻美(弁護士)、中村ひろ子(アイ女性会議事務局長)、林陽子(弁護士)、三浦まり(上智大学教授)、皆川満寿美(中央学院大学准教授)、村尾祐美子(東洋大学准教授)、屋嘉比ふみ子(ペイ・エクイティ・コンサルティング・オフィス(PECO)代表)、湯澤直美(立教大学教授)、柚木康子(女性差別撤廃条約実現アクション共同代表)
賛同団体
(2020年7月1日現在。括弧内の地名は所在地。「全国」は全国団体。五十音順)
アイ女性会議(全国)
アウェア(東京都)
(一財)アジア・太平洋人権情報センター(大阪府)
明日少女隊
Alliance YouToo(東京都)
あるこうよむらさきロード実行委員会(東京都)
安全な労働と所得保障を求める女性介護労働者の会(東京都)
「慰安婦」問題解決オール連帯ネットワーク
一般社団法人 ウェルク(東京都)
一般社団法人 エープラス(東京都)
一般社団法人 神奈川人権センター(神奈川県)
一般社団法人 くらしサポート・ウィズ(東京都)
一般社団法人 GEN・J(岩手県)
一般社団法人 女性相談ネット埼玉(埼玉県)
一般社団法人 大学女性協会(全国)
一般社団法人 ちゃぶ台返し女子アクション(神奈川県)
ウィメンズスタディズ・ネットワーキング(新潟県)
NPO法人 青い空ー子ども・人権・非暴力(東京都)
NPO法人 ウィメンズ・ウィングちば(千葉県)
NPO法人 Nプロジェクトひと・みち・まち(富山県)
NPO法人 エンパワメント福岡(福岡県)
NPO法人 家庭科教育研究者連盟(全国)
NPO法人 共同の家プアン(横浜市)
NPO法人 参画プラネット(愛知県)
NPO法人 全国女性シェルターネット(全国)
NPO法人 男女共同参画フォーラムしずおか(静岡県)
NPO法人 ハートスペースM(宮崎県)
NPO法人 フェミニストカウンセリング東京(東京都)
FGM廃絶を支援する女たちの会
均等待遇アクション21(東京都)
クオータ制の実現をめざす会(愛知県)
公益財団法人ジョイセフ(東京都)
(公財)日本キリスト教婦人矯風会(全国)
公益社団法人日本女医会(全国)
国際女性の地位協会(全国)
シェアスル(千葉県)
JAWW(日本女性監視機構)(全国)
ジェンダー平等 埼玉(埼玉県)
ジェンダー平等をすすめる教育全国ネットワーク
女性首長を実現する会 愛知(愛知県)
女性グループ翼(ウィング)(大阪府)
女性差別撤廃条約選択議定書批准を求める実行委員会とやま(富山県)
女性と人権全国ネットワーク(全国)
女性労働問題研究会(全国)
女性ユニオン東京(東京都)
真のポジティブアクション法の実現を目指すネットワーク(ポジネット)(東京都)
性暴力禁止法をつくろうネットワーク(全国)
世界女性会議岡山連絡会(岡山県)
全国フェミニスト議員連盟(全国)
「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンター(VAWW RAC)(東京都)
たもさく(多様な議会を模索する会)(埼玉県)
男女共同参画と災害・復興ネットワーク(千葉県)
男女共同参画みえネット(三重県)
投票サプリ(京都市)
特定非営利活動法人アジア女性資料センター(東京都)
特定非営利活動法人DV防止ながさき(長崎県)
なくそう戸籍と婚外子差別・交流会(東京都)
新潟県中越大震災「女たちの震災復興」を推進する会(新潟県)
にいざジェンダー平等ネットワーク(埼玉県)
日本母親大会連絡会(全国)
認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(東京)
働く女性の人権センターいこ☆る(大阪府)
パリテ・キャンペーン実行委員会(全国)
常陸24条の会(茨城県)
男女(ひと)がともに生きる社会を進める F&Mながおか市民会議(新潟県)
ひとり親家庭支援のための地方議員ネットワーク
ヒミコプロジェクト(東京都)
フェミニストセラピィ”なかま”
ふぇみん婦人民主クラブ(東京都)
婦人国際平和自由連盟(WILPF)日本支部(全国)
北京JAC(世界女性会議ネットワーク)(東京都)
北京JAC・新潟(新潟県)
マイノリティ女性フォーラム(東京都)
みんなの会in日高(埼玉県)
ワーキング・ウイメンズ・ネットワーク(大阪市)